ダーマさんがやらかした

お天気続きでありがたい。早めに宿を出て、嵐山へ。朝早いし、まだ紅葉前だし、ということで人通りもちらほら。これぞ京都〜っていう風景に、ぽかんとしてしまう。ほぉ!とか、きれーい!とか言うばかりで、頭の中は、もはや空っぽ。竹林へむかう道なりのお地蔵さま。大きさと表情がぜんぶ違って、なんだかマトリョーシカみたい。そして竹林からの朝の光は、花びらみたい。そして天龍寺へ。美しい風景は語るべくもなし。ただそこに身を置くだけで素晴らしい。見事な借景のお庭を眺めながら、いつまでも座っていたい。が、そういうわけにもいかず、抹茶ほうじ茶ソフトなどを食べつつ、家族と別れてわたしはひとり、電車を乗り継ぎ、ギャラリーへ向かう。ギャラリーのオーナーが経営する地下のカフェアンデパンダンで、お昼。展示中の作家には、ここのドリンク券がもらえるのもうれしい。
さて開廊の時間。ひとりでやってきた若い女の子が、起き上がり小法師の「ダーマさん」をコロンコロンやっている。これには鈴が入っていて、チロチロと音が鳴るのだ。もう一回いいですか?と言うので、どうぞ、何度倒しても、必ず起き上がりますから大丈夫です。じゃあと、チロチロ。他の作品を見てまた、ダーマさんのところへ来て、チロチロ。あぁもう一回、とチロチロ。そのうちにぽろぽろ泣き出してしまった。えー!どうしよう。大丈夫?何か思い出しちゃったかな?身につまされたことがあったらしいが、それ以上、あまり立ち入ったことは聞けないし。数年前にも一度だけ、個展で似たようなことがあった。気持ちのどこかに、スイッチが入っちゃたのかもしれない。ダーマさん、女の子に何したの?ツイッターの告知を見てという方が何人か見えてお話。それから入れ替わるようにして「上燗や」さんの綾子さんや「booze k 」のこうちゃんさんや、そのお客さんがDMを手に見に来て下さった。ギャラリーの人に、京都にお知り合いがいらっしゃるんですね?って。いや、こちらへ来てからお知り合いになったんです、と、いきさつを説明。なんという有り難く、嬉しいご縁でしょう。わたしは幸せ者です。様々なご縁に心から感謝。気持ちがなんだかもう、いっぱいになってしまった。じわじわじわ。
夜は京都駅で、にしんそばを食べて家族を見送り、ひとり宿へ帰る途中、足りなくなったDMをコンビニでコピー。部屋で切ったり、折ったりの作業。注文枚数読み違えたみたいね。
じわじわじわ。
そうだ、だんだんわかってきたよ。自分が何処にいて、何をしているのかを。
3日目の終わり。

ただそれだけなんです。

晴れた。文化の日。これを機に京都に家族旅行しちゃおうという計画を遂行するべく、朝イチの新幹線で家族がやってきた。宿からいちばん近い観光スポットは京都御所。空気が澄んでいてどこを撮っても、ぱきぱきの写真になる。砂利をざくざく歩き、芝生をふかふか歩き、御所を抜ける。道すがら見つけた、妙音辧財天にお参り。朝の掃除を終えたばかりで、水が打ってあり、そこらじゅうキラキラ光って、隅々まできれいにしつらえてある。なんだか静かにもてなされているような、心地よさがあった。さらに歩いて「出町ふたば」で、まめ餅を買い、鴨川のせせらぎの側に座って食べた。次はどこへ行こうか。ここから近いということで、河合神社、下鴨神社へ。結婚式や七五三の子どもたちで、華やかに賑わっていた。流れに映る空や、木漏れ日、さらさらと音を立てる風、ひらひら落ちる葉っぱ、清々しい空気を堪能してお参り。神様にごあいさつもしたことだし、そろそろ時間ということで、ギャラリーへ。先週まで家にあった作品を、ズラッと並べた展示の様子を見てもらい、家族は引きつづき観光へ。この日は休日だったためにギャラリーには観光客らしき人が、流れるように入ってくる。カップルや外人さんが多かった。美術関係らしき若者3人に、アートについてどう思いますか?と聞かれ、あー、その話なら、と言いかけたところで、もううんざりですか?というので、はいそうですと答えた。自分のやっていることはアートだとは思っていない。それについての議論も見聞きはするし、学ぶべきところは学びたい。だけどそれは、自分の乗るべき船ではないと思っている。だいいち乗れない。悩んだ時期もあった。でも今は、何かそういうものから抜け出したような気がして、こんなの出ました的に描いている。気分みたいなものを、誰かと共有できるならば、もうそれだけでいいんです。なんのコンセプトも無い単純なものです。子どものように、自由に描くのが、今は自分の理想かもしれないんです。だいたい、そんな大層なこと言える人間じゃないし。若者たちの眼差しが真剣だったので、正直に言うしかない。なるほどぉ、そうなのかぁと、ぐるっと作品を見た赤シャツ君が、僕はコレが好きです、と指差したのは、わたしの銅版画の第一作目だった。それは、いちばん最初に、わくわくしながら描いたやつです。そうかぁ、なんか伝わってきましたよ。そうですか!それならいいんです、わたしはもう、それでいいんです。妙に納得されてしまい、帰る頃には最初とずいぶん様子が違っていた。若者のトゲ抜いちゃったかな?でも、しょうがないんだ。こうなんだもの。その後はヒマになるとストンと居眠りを3分くらいしつつ、やがて終わりの7時を過ぎて、 みんなと合流。ギャラリーからほど近い先斗町の「上燗や」さんの本店へ。お店には、伴清一郎さんの作品が2点飾られていた。ひとつはツイッターのアイコンで見たことのあるお顔。雄叫びが聞こえてきそうな迫力がありつつ、もう1点もすべらかな絵肌。日本橋で拝見した作品もそんな穏やかな迫力があった。やはり作品にしかお目にかかったことはないけども、ちょっとお人柄を想像してみたりして。お客さんも美術関係の人が多いみたい。手伝われていた素敵な女性も、絵描きさんだった。止まらない味のしょうゆ豆、揚げたてのさつま揚げ、ポテトサラダ、ごま豆腐、おぼろ豆腐、美味しすぎて写真を撮り損ねたおすすめの生麩揚げ、などなど。熱燗と、上品なお味の美味しいお料理で、お腹もココロもいっぱいになり、酔いざましに、高瀬川沿いを散歩してから宿へ。
ぽわぽわぽわ。
あれ?わたしは何しに来たんだっけな?そうだ、個展をしに来たんだよ。
2日目の終わり。

小山ゆうこ展「平凡ファンタジィ」京都 編 はじまりの日

11月2日 その日の朝は「今から根拠のない自信を持って、偶有性の海に飛び込みに行ってきます!」と茂木健一郎さん宛に、呟いちゃおうかと思ってやめた。まだ暗いうちに荷物をゴロゴロ鳴らして、朝イチの新幹線で京都へ。車内でツイッターを見ながら、朝の挨拶などしているうちに、ローマ法王がかぶってるような小さい白い帽子をてっぺんにちょこんと乗せた富士山が現れては過ぎ、あっという間に京都に着いた。通勤時間帯の混んだ地下鉄に乗り、宿へ荷物を置きに行く。搬入作業は10時から。まだ2時間近くある。道を覚えるためにもギャラリーまで歩いてみることにした。このひんやりした空気と碁盤の目のような道と、街のあちこちに文化財などがぽんぽんあるこの感じ。何かに似ている。そうだバルセロナだ。二駅ぶんくらい歩いたけど、そう遠くない。方向オンチのわたしでも、地図を見て歩けばなんとなく把握できるこういう街のスケールも、なんとなくバルセロナに似ていた。ギャラリーのある1928ビルの隣のタリーズで展示のイメージを頭で見ながらコーヒーを飲み、ギャラリーが開くのを待った。この古い建物、1928ビルはその名の通り1928年に建てられたビルで毎日新聞社の京都支局として使われていたらしい。銀座の奥野ビルよりもさらに古い。会期中お客さんに「なぜここで?」と聞かれて「古い建物が好きなんです」と何度も答えたっけ。広いメインギャラリーと小さいショップギャラリーがあって、わたしはその小さいほうの部屋。入り口のドアの上には右に傾いて落ちそうな「庶務室」という木の札がかけられたままになっていて、当時の面影を偲ばせているあたりも好き。誰も手伝ってくれる人もいないので、12時の開廊に間に合うのだろうかとヒヤヒヤしながら、汗かきつつ、ダンボールを開けて、展示作業。なんとか形になったところで、12時過ぎにはお客さんがどんどん入ってくる。どうやらここは、そういう立地のようだ。親類、縁者、友人は誰もいないから、少しどぎまぎしたけど、皆気軽に声をかけてくれるので、なんとなく幸先がいいような気になって、ようやくほっとした。とても熱心に見てくれている若いご夫婦に話を聞いたら、一乗寺の「恵分社」でDMを見て初日を待っていたというではないか。恵分社は一度行ってみたいと思っていたお店。ギャラリーがどこに広報してくれているのか知らなかったので、ちょっとびっくりした。かわいらしい奥さんが気に入ってくれた小さなマトリョーシカ「よるねこ」をダンナさんが買ってくれた。初日の嫁入り。どうぞよろしくお願いします。「写真いいですか?」「どーぞどうぞ」ダンナさんは立派なカメラで写真をいっぱい撮っていった。そんなこんなで、お昼を食べる余裕も無く、早々に日が暮れて、ひそかにテンションあがったまま、ギャラリーをあとに移動。ツイッターで京都で個展をやると言ったら、なんと画家の瓜南直子さんが、DMを置いてくれるところがあるからと情報を下さった。先斗町と出町柳に2軒のお店を構える「上燗や」さんと、四条にあるカウンターバーの「booze k」さん。料理屋さんとバーだなんて!どこで食事をしたらいいかもわからないわたしは、行くしかないでしょ!と思い、三条駅から電車に乗って、まずは出町柳の「上燗や茶房」さんへ。ここはカナンさんが前に開店のお知らせを呟いたとき、行ってみたくて偶然にもチェックしていたお店だった。新しくてきれいなお店で、お客さんは皆ひとりで来ている感じだったので、安心してわたしもビールなんか頼んじゃって、彩りがきれいな家庭料理の肉じゃが定食で、ようやく食事。あー、ぜんぶ美味しい。しばらくまったりしてから帰り際に、瓜南直子さんに教えて頂いたこととDMを置いて頂けないかとお願いしたら、快く承諾して下さった。「カナンちゃんとお友達なの?」「それが実はまだお会いしたことないんです!」そう、日本橋高島屋の「ストーリーテラーズ 小説と絵画展」で作品にお会いしたことしかないんです。こんな不思議な体験は夢でもした事がない。温かい笑顔で見送られ、なんだか嬉しくなって、電車に乗って四条へ向かった。四条の「booze k」さんは、あいほんの地図がなかったら、ちょっと見つけられなかったかもしれないような場所にあって、わたしのようなよそ者が、のこのこと入っていいのかわからない感じもしたけど、開いているドアの横で急がしそうなマスターと出くわした。「ん?」って目を丸くされたマスターに「あのう、瓜南直子さんに聞いて来たんですけど」って言ったら「あー、どーぞどーぞ!」って。まだいろいろ準備中にも関わらず、手を動かしつつ、お話ししつつ、ジントニックを作ってくれた。とにかく話題が途切れない。2杯目は「こんな感じって言ってくれれば、そんな感じのカクテル作るから」「甘くないのがいいです」「じゃ、モヒートは?」「あーいいですね!」京都でちょうど開催中のアートイベント「まなびや2010」のことを聞いたり、カナンさんが出した本を見せてもらったり。どれくらい居たかな。すっかりリラックスしちゃって帰り際に、あ!と思い出して、またちゃっかりDMを置いてもらってきたのでした。
夜はさすがに歩いて帰れそうもなかったので、地下鉄に乗って宿へ。初日が盛りだくさんすぎて、目とかもうギラギラしてたかもしれない。落ち着きを装い、ようやくチェックインして部屋へ。
ぐるぐるぐる。
あれ?わたしはどこにいるんだっけ?そうだ、ここは京都なんだよ。
初日の終わり。

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