小山ゆうこ展「平凡ファンタジィ」京都 編 はじまりの日

11月2日 その日の朝は「今から根拠のない自信を持って、偶有性の海に飛び込みに行ってきます!」と茂木健一郎さん宛に、呟いちゃおうかと思ってやめた。まだ暗いうちに荷物をゴロゴロ鳴らして、朝イチの新幹線で京都へ。車内でツイッターを見ながら、朝の挨拶などしているうちに、ローマ法王がかぶってるような小さい白い帽子をてっぺんにちょこんと乗せた富士山が現れては過ぎ、あっという間に京都に着いた。通勤時間帯の混んだ地下鉄に乗り、宿へ荷物を置きに行く。搬入作業は10時から。まだ2時間近くある。道を覚えるためにもギャラリーまで歩いてみることにした。このひんやりした空気と碁盤の目のような道と、街のあちこちに文化財などがぽんぽんあるこの感じ。何かに似ている。そうだバルセロナだ。二駅ぶんくらい歩いたけど、そう遠くない。方向オンチのわたしでも、地図を見て歩けばなんとなく把握できるこういう街のスケールも、なんとなくバルセロナに似ていた。ギャラリーのある1928ビルの隣のタリーズで展示のイメージを頭で見ながらコーヒーを飲み、ギャラリーが開くのを待った。この古い建物、1928ビルはその名の通り1928年に建てられたビルで毎日新聞社の京都支局として使われていたらしい。銀座の奥野ビルよりもさらに古い。会期中お客さんに「なぜここで?」と聞かれて「古い建物が好きなんです」と何度も答えたっけ。広いメインギャラリーと小さいショップギャラリーがあって、わたしはその小さいほうの部屋。入り口のドアの上には右に傾いて落ちそうな「庶務室」という木の札がかけられたままになっていて、当時の面影を偲ばせているあたりも好き。誰も手伝ってくれる人もいないので、12時の開廊に間に合うのだろうかとヒヤヒヤしながら、汗かきつつ、ダンボールを開けて、展示作業。なんとか形になったところで、12時過ぎにはお客さんがどんどん入ってくる。どうやらここは、そういう立地のようだ。親類、縁者、友人は誰もいないから、少しどぎまぎしたけど、皆気軽に声をかけてくれるので、なんとなく幸先がいいような気になって、ようやくほっとした。とても熱心に見てくれている若いご夫婦に話を聞いたら、一乗寺の「恵分社」でDMを見て初日を待っていたというではないか。恵分社は一度行ってみたいと思っていたお店。ギャラリーがどこに広報してくれているのか知らなかったので、ちょっとびっくりした。かわいらしい奥さんが気に入ってくれた小さなマトリョーシカ「よるねこ」をダンナさんが買ってくれた。初日の嫁入り。どうぞよろしくお願いします。「写真いいですか?」「どーぞどうぞ」ダンナさんは立派なカメラで写真をいっぱい撮っていった。そんなこんなで、お昼を食べる余裕も無く、早々に日が暮れて、ひそかにテンションあがったまま、ギャラリーをあとに移動。ツイッターで京都で個展をやると言ったら、なんと画家の瓜南直子さんが、DMを置いてくれるところがあるからと情報を下さった。先斗町と出町柳に2軒のお店を構える「上燗や」さんと、四条にあるカウンターバーの「booze k」さん。料理屋さんとバーだなんて!どこで食事をしたらいいかもわからないわたしは、行くしかないでしょ!と思い、三条駅から電車に乗って、まずは出町柳の「上燗や茶房」さんへ。ここはカナンさんが前に開店のお知らせを呟いたとき、行ってみたくて偶然にもチェックしていたお店だった。新しくてきれいなお店で、お客さんは皆ひとりで来ている感じだったので、安心してわたしもビールなんか頼んじゃって、彩りがきれいな家庭料理の肉じゃが定食で、ようやく食事。あー、ぜんぶ美味しい。しばらくまったりしてから帰り際に、瓜南直子さんに教えて頂いたこととDMを置いて頂けないかとお願いしたら、快く承諾して下さった。「カナンちゃんとお友達なの?」「それが実はまだお会いしたことないんです!」そう、日本橋高島屋の「ストーリーテラーズ 小説と絵画展」で作品にお会いしたことしかないんです。こんな不思議な体験は夢でもした事がない。温かい笑顔で見送られ、なんだか嬉しくなって、電車に乗って四条へ向かった。四条の「booze k」さんは、あいほんの地図がなかったら、ちょっと見つけられなかったかもしれないような場所にあって、わたしのようなよそ者が、のこのこと入っていいのかわからない感じもしたけど、開いているドアの横で急がしそうなマスターと出くわした。「ん?」って目を丸くされたマスターに「あのう、瓜南直子さんに聞いて来たんですけど」って言ったら「あー、どーぞどーぞ!」って。まだいろいろ準備中にも関わらず、手を動かしつつ、お話ししつつ、ジントニックを作ってくれた。とにかく話題が途切れない。2杯目は「こんな感じって言ってくれれば、そんな感じのカクテル作るから」「甘くないのがいいです」「じゃ、モヒートは?」「あーいいですね!」京都でちょうど開催中のアートイベント「まなびや2010」のことを聞いたり、カナンさんが出した本を見せてもらったり。どれくらい居たかな。すっかりリラックスしちゃって帰り際に、あ!と思い出して、またちゃっかりDMを置いてもらってきたのでした。
夜はさすがに歩いて帰れそうもなかったので、地下鉄に乗って宿へ。初日が盛りだくさんすぎて、目とかもうギラギラしてたかもしれない。落ち着きを装い、ようやくチェックインして部屋へ。
ぐるぐるぐる。
あれ?わたしはどこにいるんだっけ?そうだ、ここは京都なんだよ。
初日の終わり。

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