作品エピソード

2005年のテンペラ作品「おみやげ」(個人蔵)

ある日、娘が遠足で潮干狩りに行って、びっくりするほどたくさんのあさりを持って帰ってきました。潮抜きしようとボウルに入れた、そのあさり達は、どれもきれいで、ひとつとして同じ柄のあさりはいないことに、あらためて気が付きました。バター焼きやボンゴレにして、おいしくたっぷり食べた後、捨てるのが惜しくて、貝殻をきれいに洗って、いくつかを選んでビンに入れてとっておいたものを、描いたのです。

この作品はアートコレクターの山本冬彦さんが企画されていた「アートの見方・買い方」講座の画廊めぐりツアーで、個展会場に来てくださった参加者の方が「絵を買うのは初めて」とおっしゃって、買ってくださったものです。その時は展示してある絵の説明を求められ、これはどんなあさりなのかをお話しました。あとで「あの時作品を買ったのは、娘さんのおみやげだというエピソードを聞いたからです」というお手紙を頂きました。あれから5年が経ちますが、その方は今はもうたくさんの作品を持つコレクターさんになられたようです。描き手としては、そういう事柄に関われたことを、嬉しくありがたく思っています。

作品には描いたときのエピソードがはっきりしているものと、そうでないものがありますが、いま手元にないものは、描いた時とはまた別の、新たなエピソードがその人のところで生まれているようで、そんな話を聞くと嬉しくなります。

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